いろんなところで、ああ、秋だなあ、と感じる。
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狂ったように梨を食べ続けている。
あんなに生の果物は苦手だったのに。
さらさらとしゃくしゃくと、甘くてみずみずしい果汁にうっとりする。
夕飯を作って食べて、あるいは外で食事を楽しみ、ひとしきりぼけっとしておもむろに包丁を握る。
半分は明日のお弁当用に小さく切ってタッパーに詰め込み、半分はざっくりと大きく切って口に放り入れる。
口の中に長く残る蜜の余韻。1日の終わりにじんわりと幸せを感じる瞬間。
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日に日にお弁当の量が増えている。食べ盛りの男子学生のそれにも負けないくらい。
たくさん食べたくて詰め込みたくて、そして美味しくて、この2ヶ月でお弁当用のタッパーを3回替えた。
もともと、ちまちましたおまけのようなごはんは好きじゃないのだ。
あと何回食事をすることが出来るのか全然わかんないけど、できる限り、しっかりと納得のいくごはんが食べたい、と強く感じている。
理科なんてもっとも苦手な教科だったのに、鍋に転がる野菜を見つめていると、あれとこれを合わせてこれくらい時間をかけるとこんな味になる、今食べたいあの味になる、とふっとわかる瞬間があって、それは大概当たっていて、まるで実験のようで、そしてまるで自分が天才化学者になったかのような錯覚を覚え、大変おもしろい。
それはただ、自分のためのごはんをずっと作り続けてきて、自分の好みの味がわかっていて、それを体の芯が覚えただけのことなのだけど。
それでも、ごはんはとても楽しい。
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自転車を新調してからというもの、その乗り心地の気持ちよさに、時間さえあれば今まで車や電車でしか行ったことのない場所にペダルを漕いで向かっている。
金曜日は池袋へ、土曜日は千歳烏山へ行った。
真夜中の山手通りも、木漏れ日が差す農大の横の道もそれはそれは気持ちがよくて、そのまますいーっともっと遠くまで行きたくなる。
毎朝の自転車の道のりも、もう見慣れた風景になった。
その見慣れた風景も、見る、感じる印象がじんわりと緑から赤に変わって、わずか20分の道のりにいつも小さくはっとする。
ざわざわした気分もすっと晴れる、風を切る朝のこの時間がとてもとても愛おしい。
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とても原始的だけど、いろんなところで、こんなところで今年の秋を感じている。
ざわざわするときももちろんあるけれど、でもそれ以上に一人の時間を、誰かとの時間をゆったりとした幸せな気持ちで過ごせて、今年の秋はとても好きな秋になりそう、なっている、と確信している。